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おすすめしたいけど広まって欲しくない(観光協会事務局長談)下田で上質な時間を過ごすなら「花水季」

「お姉さんならどの店いく?」

これは下田市観光協会の女性職員に向けた高度な質問のひとつ。

寅さんのような粋な語りかけで相手をリラックスさせつつも

”海鮮や地物にうるさい地元民の舌を満足させ、雰囲気もよく、価格納得度の高いお店”

そんなハイパフォーマンスな情報を引き出すことを期待している玄人技。

この質問に対してはもちろん幾つもの選択肢があるわけですが、

地元ならではの上質な時間を過ごしたい、そんな思いを察知した時にご案内するお店がある。

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花水季(はなみずき)

下田駅から徒歩約9分、観光エリアとは異なる比較的閑静なエリアに立地しているお店。

人気のお店なので電話予約をしておくと安心だ。
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扉を開けた店内には、晒しのカウンターと地元の常連さんたち。

席数はカウンター8席と、個室2つの計20席。

晒し(さらし)とは、お客さんと対面仕事をする寿司屋のような板場。
寿司屋などによくあるネタを並べる冷蔵ショーケースも無く、仕切り壁も低いため開放感がある。

地元の常連さんは、このカウンター越しに大将の仕事を眺めたり会話を交わしたりして時間を楽しむ。

「カウンターの奥行き幅は大きい器を置きたいから広く、高さは包丁使いも何もかも全部見えちゃうくらい低く。その方がお客さんが見ていて楽しめるよね。」

そう話すのは花水季の大将、

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中西さん

下田生まれ、下田育ち。
賑わいの隆盛を誇った箱根で板前の修行を積んだ後、下田に戻ってから旅館や料亭で板前として勤め、昭和63年6月奥様と二人三脚で花水季をオープン。
2018年6月が30周年の節目だ。

下田新聞
板場の仕事をのぞいてるだけでも楽しいし、見ていると食べたくなりますね。

中西さん
そうやって言ってくれるお客さんは多いです。

下田新聞
カウンター越しに大将と話したり、お隣さんと会話が弾んだりするのも面白いですよね。

中西さん
こっちが忙しくしてる時、お客さん同士がわいわい賑やかにやって飲んで頂けるって、一番ありがたいです。

下田新聞
そうなんですか!?飲んべえ同士で意気投合して騒がしいこともありますが。

中西さん
この店で同じ時間を共有してもらってる中で、リラックスしてもらえる状態、それがお客さんにとって一番いいと思うんだよね。

下田新聞
おお、なんかそう言われるだけでホッとします。今日も楽しめそうです。

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お通しの揚げ湯葉と枝豆豆腐。

下田新聞
ああ、あげ湯葉うまっ!飲みたくなる。
さくらんぼと枝豆、季節を感じますね。
そういえば花水季の季の字にもそんな思いがあるんですか?

中西さん
やっぱし和食だから、店の名前には季の字を使いたかったわけ、”なになに季”って、花水季じゃなくても。
下田開港100周年(昭和28年)の時に日本からはソメイヨシノを贈って、アメリカからの返礼がハナミズキ。
それで、アメリカと日本の関係は下田の黒船がはじまりだから、じゃあ花水季にしようって。

下田新聞
素敵な由来ですね、下田公園に咲くハナミズキを見る目も変わります。
お、何かいい匂いがしてきた。

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カツオのたたきとオリーブ甘夏和え

オリーブバージンオイルと酢と醤油、ニンニク、タマネギ、大葉、生姜、さらに甘夏みかん。
白身魚でも合うし地金目鯛(伊豆七島近海の特定海域で獲られた金目鯛で、脂がのり、味が濃い)と合わせれば最高とのこと。

下田新聞
今日もそうですが、こちらが注文しなくても絶妙なタイミングで料理が運ばれてきますよね。
何品までとか決まってるんですか?

中西さん
決まってないです。
自分でお客さんの様子を見ながら出しています。
食べられそうなら次出す場合もあるし、全く出さないお客さんもいます。

下田新聞
飲みがメインで来るお客さんもいますしね。

中西さん
はい、中には刺身だけっていうお客さんもいますし。
それと初めてのお客さんには一応メニューをお出ししますよ。

下田新聞
初めて来店した時メニュー渡されなかった記憶がありますが。

中西さん
そうだったかな?(笑)

下田新聞
あの時は、心の中で”何でも旨いもの食いたい”ってつぶやいていましたからね。

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店内の短冊メニューやお品書き帳の中から好きなものを注文するのもいいが、大将に任せて身を任せてみるのもいいだろう。

筆者が注文するとしたらこちら、
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天ぷら

この日はエビ、オクラ、椎茸、明日葉のかき揚げ。

春には山菜づくしの天ぷらが絶品。
たらの芽や、ハリギリというあまり聞きなれない美味い山菜が味わえる。

花水季が扱う食材は季節の食材がメイン。
地ものだけに固執せず、今の季節はこんなものがいいですよ、といった感じで大将が旬を教えてくれる。
こんなところも地元民に人気の理由だ。

さらにこの最初の2品に関しては、

中西さん
「前回来店した時と同じ物じゃないようにしています」

下田新聞
えええ!すごい。

中西さん
それを考えるのが仕事っていうか。

下田新聞
今日は誰が来たかって全部覚えてるんですか?

中西さん
うん、覚えてるというか書いています。
最初の2品くらいはなるべく前回とかぶらないように、前々回に出したものはかぶるかもしれないですけど。

下田新聞
宿帳みたいでいいですね。

中西さん
お通しとしては続けて出さないけど、お客さんが大好きなものは毎回出してもいいんです。
一番ダメなのが嫌いなものを出してしまうことなので、嫌いなものも覚えるようにします。

下田新聞
では、苦手なら苦手ときちんと言ったほうがいいんですね?

中西さん
そうですね。
お通しが苦手って場合には返してもらって結構だから。
言いにくくても、帰ったあと見れば全然手付けてないとかわかるけど。

下田新聞
来店する度に自分好みのお店になる感じ、これはリピートしたくなる訳ですね。
それにしてもお二人はお客さんをすごく見ているんですね。

中西さん
眺めてる感じかな、それがもう大事な仕事だね。

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地元のお客さんで賑わうお店に観光客が行くと、

ローカルならではの光景を目の当たりにすることがある。

常連さんから大将へお見舞いするカウンターパンチ、

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まあまあ一杯どうですか

何十年もの付き合いであるからだろう、間髪入れずに

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女将さんもまあまあ

右側の常連さんは、下田市観光協会事務局長の藤原さん。

藤原さん
「自分がカウンターに座れなくなると嫌だから、メディアに載って欲しくない(笑)」

と逆に信用のおける発言。

お客さんが大将にボトルを傾ける光景は粋で楽しい。

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お店の冷ケースにはビールの他にも地酒や焼酎など、注ぎやすいボトルがずらり。

その中でもオススメは下田の地酒、

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純米吟醸酒 黎明(れいめい)

下田自酒倶楽部という下田の日本酒好きの集まりが、2001年に地元の田んぼで原料の米作りから始めた地酒。

中西さんも毎年田植えや稲刈りに参加している。

黎明を飲み始めているとスッとおつまみが、
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メジナの昆布締めと唐草大根

お客さんの好み、箸の進み具合、お酒の変化に合わせてちょうどいい品が運ばれてくる。

カウンター越しのインタラクティブコミュニケーションだ。

ある程度食べ進むと「これあるけど食べる?」とちゃんと聞いてもらえるから、無理に食べ過ぎることもない。

下田新聞
お客さんが中西さんにお酒を注ぐっていう習慣はいつくらいから始まったんですか?

中西さん
このお店始める前、晒しのカウンターで修行勤めしてた時もこうやってカウンター越しにあったから、その頃からかな。中には「おめえは俺に一番いいものを出せ、その代わり飲め」とかいうお客さんも。

下田新聞
飲ましてやるから、旨いものを選りすぐれと?

中西さん
そうそうそう、その店は年配の粋な旦那衆も多かったから。
だからお客さんから色々とおそわるし、正月にチップを7万もらったこともあったよ。

下田新聞
!!

中西さん
1年間頼むぞと。

下田新聞
1年間頼むって?

中西さん
俺が来たら毎回うめーもん出せよと。

下田新聞
かっこいーですねー、その人。

中西さん
今じゃ考えられないですけどね。
純粋に一緒に飲みたいってお客さんもいましたし。

下田新聞
当時の粋の名残、いいですね。

中西さん
まあお客さんに気を遣っていただき、なおかつお金を使っていただくんだからとんでもないことなんですよ。
でもあそこの店はそういう雰囲気の店だよってお客さんが作ってくれて、後からきた人にも伝わっていく。

下田新聞
なるほど、お客さんが作っていったんですね。

中西さん
そう、お客さんが作ってくれたんですよね、そういう雰囲気。ありがたい話しですよ。
うちの店のあり方っていうか、よく私は言うんですけど、
お客さんがお店を作るんです。

主役はお店のファンというお客様目線の言葉でもあり、”北風が勇者バイキングをつくった”という北欧のことわざのように、厳しいお客さんが自分やお店を育ててくれたという実体験に基づくなんとも素敵な言葉だ。

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中西さんには花水季の大将の他にもう一つの顔がある。

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観光客へのおもてなしとして30年以上も前から駅や街中で氷像を創るアーティストとしての顔だ。

ノミ一本独学というから驚きだが、そこはやはり刃物を扱う職人だからだろうか

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大胆に、

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繊細に、

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美しい彫像を創り上げる。

ここ最近は駅でのお出迎えは行っていないが、地元のキンメ祭りや国際カジキ釣り大会など、まちの賑わいを創るため地域活動を行っている。

下田の観光は一人一人のおもてなし、行動から。

”まちは住民が作っている”そんな一貫した信念を取材を通して感じた。

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中西さんが仕事をしていて一番嬉しい瞬間は、なじみのお客さんが店に入り座ったとたんに思わずこぼれる「ふーっ」とか、「あーっ」といった安堵の吐息を聞く瞬間だそうだ。

おそらく花水季に初めて行く方は、それとは真逆のちょっとした緊張が伴うと思う。

初めての店でドキドキということもあるが、閑静な立地、清潔感ある店構え、視界の広いカウンター、品のある大将と女将さんを前にすると筆者も最初は背筋が伸びた。

そんな緊張感を中西さんも女将さんもすぐに察し、少しづつ徐々にほぐしていってくれる。

人見知りな方にはこの少しづつの間合いがとても気持ちよく、もっと積極的に会話したい方には

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同じくカウンターに座っている常連さんが相手をしてくれることもある。

そして2回目、3回目と回数を重ねるごとにカウンターへの座り心地はどんどん気持ちよくなっていくはずだ。

なぜなら、中西さんが取材中何度か口にした

「お客さんがこのお店を作ってくれている」

には、これから訪れる一人一人も含まれていくだろうから。

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取材先:花水季
住所:下田市西本郷2丁目3-11
営業時間:17:00~23:00 
定休日:毎週日曜日 (12/30~1/4まで休み)
TEL:0558-22-9295
WEB: http://www.shimoda-city.info/eat/hanamizuki.html
駐車場:3台(お店目の前) 
座席:カウンター8席、個室2つ(4名、8名)
アクセス:下田駅より徒歩約9分

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